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実験・計測環境の整備 (その1)—直流安定化電源の製作

なんだかんだで前回の工作記事からずいぶん経ってしまいましたが、まあ、ゆっくり続けていく予定です。なお、今回からしばらくは、実験や計測のための装置を買ったり作ったりして、いろいろ実験をしながら技術力の向上を図りたいと思います。

実は、(半年以上前の話になるのですが…) 秋月電子通商から格安のオシロスコープと「MAX038使用・広帯域精密波形オシレータキット」を購入したので、まずはそれを試してみるつもりです。このキットを使うには ±5V, 100mA の電源が必要なのですが、後学のために電源の方も自作してみることにしました。今回はその電源の製作がメインです。

※免責事項: このページは個人的な趣味としてやっている電子工作を披露するだけのものなので、情報の信頼性などは100%保証できません。参考にされる際は自己責任でお願いします。

1. オシロスコープ買っちゃいました

左の写真が今回購入した(アナログ)オシロスコープです。値段は 36,000 円で、オシロスコープとしては最も安い部類に入るのではないかと思いますが、それでも結構思い切った買い物でした。がんばって活用していきたいところです。


2. 直流安定化電源の設計

さて、今回の目標は、±5V, 100mA の直流電源を作ることです。家庭用の 100V の交流電源をトランスで降圧して、整流回路・平滑回路を通して3端子レギュレーターに送り、安定した出力が得られるようにします。正負電源なので、3端子レギュレーターは正電圧用のもの(78シリーズ)と、負電圧用のもの(79シリーズ)の二つが必要です。

3端子レギュレーターを初めて使うので、今回はずいぶん勉強しました。特に、NECエレクトロニクスのホームページにある「三端子レギュレータの使い方」という資料を非常に参考にさせていただきました。(リンク先から、サポート→FAQ→リニアIC→電源用IC→三端子レギュレータ、と進む。) ただ、今回使用した3端子レギュレータは NEC 製ではなく(^^;)、東芝製の TA7805S (5V, 1A) と TA79005S (-5V, 1A) です。もちろんこの二つのデータシートも注意深く調べる必要があります。(目標からすると普通は TA78L05S などの 5V, 100mA のものを選ぶところかもしれませんが、今回は余裕をもたせることにしました。)

まず、データシートによると、TA7805S などの最小入出力間電位差は 2V なので、入力電圧(整流・平滑回路の出力電圧)を 7V 以上確保しなければなりません。しかも、整流・平滑回路の出力にはリップル (脈動の成分) が含まれているので、そのリップルの最低値が 7V 以上でなければならないわけです。一方、リップルの最大値が大きすぎると、入出力間電位差と出力電流の積が最大許容損失 (許容される最大の消費電力) を超えてしまう恐れがあります。最大許容損失は放熱板の有無によってだいぶ違いますが、今回の場合、リップルの最大値を 12V 程度までに抑えれば、放熱板なしでもいけそうです (私がデータシートを誤読してなければ)。

これに合わせてトランスの二次電圧や平滑コンデンサの容量などを決めていくわけですが、リップルの幅がどれくらいになるか、シミュレータを使用して見積もることにします。 実はかなり前に、棚木義則編著「電気回路シミュレータ PSpice 入門編」(CQ出版社) という本を買って持っていたのですが、この本の付録に OrCAD Family Release 9.2 という CAD ソフトの Lite Edition (評価版) がついているので、これを使いました。

左図は、回路エディタで整流・平滑回路を描いたものです。 トランスの二次電圧 (図では普通の交流電源で代用) を ±9V として、平滑コンデンサの容量は 1000μF としてあります。リップルを見るため、出力側に適当な負荷をつないでおきます (整流・平滑回路の出力は負荷をつながない状態ではほとんど横一直線で、負荷をつなぐとリップルが出てきます)。図ではとりあえず負荷を 100Ω としています。

トランスの二次電圧の 9V というのは実効値のことなので、これをもとに最大値を計算すると 9×√2≒12.73 [V] となります。この値から整流用ダイオードによる電圧降下を引くと 12V くらいになる (注1) のですが、これがリップルの最大値になるはずです。問題はリップルの最低値がどのくらいになるかということですが…

(注1) 正側と負側を合わせて見るとダイオード2個分の電圧降下があり、片側だけならばダイオード1個分の計算となる。 ダイオード1個分の電圧降下 (0.6V〜0.7V) を 12.73 から引けばだいたい 12V くらい。

上の回路を PSpice にかけて、出力電圧をみてみたのが右のグラフです。この場合、リップルの最低値が 10V を少し超えるくらいなので、丁度良い具合だといえます。実際にはもっといろいろ数値を変えて試してみるわけですが、最終的にこれで大丈夫そうだという結論になりました。

下が実際の製作用に描いた回路図です。



トランスの選定には定格容量も注意して見ておく必要があります (店頭データとしては定格二次電流の形で書いてあることが多いようです)。ネット通販で電源用トランスを物色したところ、定格二次電流が 220mA のものでおそらく十分だろう、ということになりました。定格容量は (9+9)×0.22=3.96 [VA] となります。また、安全のため、一次側にスイッチとともにヒューズをつけることにしました。とりあえず容量 150mA のヒューズにしたのですが、トランスの定格容量を考えると、一次電流は (3.96/100)×1000=39.6 [mA] なので、本当はもっと容量の小さいヒューズを入れないと意味がないかもしれません。(ヒューズが溶断する前にトランスが壊れるかも…?)

(追記1: トランスの一次側がショートしたときの対策としてなら、ヒューズはこのままでも大いに意味があります。)

(追記2: 後からシミュレーションなどで調べたら、起動直後以外はトランスにほとんど電流が流れないみたいなので、実はトランスの定格容量はあまり気にする必要はなかったかもしれません。)

3. トランスの取り付けと計測 (オシロスコープ初使用)

さて、製作開始です。まず、トランスを基板に取り付けることから始めました。 裏返すと下の写真のような感じです。基板に穴をあけて、固定用の金具を折ってガッチリ固定します。



ここで、トランスに電源コードとスイッチ類を取り付けて、電源を ON にしたときの二次側の出力をテスタで測ってみました。ヒューズは本来はヒューズホルダーに入れるべきですが、この時どうも間違ってサイズの合わないものを買ってしまったらしく、仕方がないのでミノムシクリップではさんでいます。

テスタは電子工作を始めた当初から持っていたのですが、記事では初登場ですね。 今回は計測環境の整備もテーマなので、なるべく計測シーンも撮っておくことにしたのです。

テスタで見れるのは交流の実効値だけですが、とりあえず問題はなし、と。

で、せっかくオシロスコープもあることですし、波形を見てみることにしました。初めて使うので、付属の方形波発振装置でプローブの調節をして(下の写真)…



そしてトランスの二次側の出力波形を見てみました。掃引時間との関係で一部しか写真に写っていませんがちゃんと正弦波が出ています (下の写真)。



4. 整流・平滑回路

次に、整流ダイオードと平滑コンデンサを取り付けて、整流・平滑回路の出力波形をみてみました (写真はマイナス側の出力を計測しているところ)。抵抗をつないでいないので、リップルは出てきていません。横一直線です。

5. 3端子レギュレーターとその周辺

次は3端子レギュレーターです。設計段階では、「この構成なら放熱板なしでもいけそうだ」というようなことを書きましたが、念のため (と、後学のため) やっぱり放熱板をつけることにしました。放熱シートをはさんで、本体と放熱板をネジで取り付けます。 このときネジの締め付けトルクが大きすぎると、IC がダメージを受ける恐れがあるらしいので、あんまり強く締めすぎないように注意しました。

で、周辺のコンデンサなども取り付けて、主要部は完成です。行き当たりばったりで配線したので、素子の配置がとても汚いです (^^;)。まあ、自分用ですから、ちゃんと動きさえすればそれでいいのですが…

6. 動作確認

ここで、実際に正側、負側ともに 50Ω くらいの負荷をつないでみて、出力電圧・電流と、整流回路のリップルの様子などを調べてみます。幸い、手元に 56Ω の抵抗器 (定格電力 1/4 W) がたくさんあるので、それを使うことにしました。ただ、5V の電源にこの抵抗器を1個つないだだけでは、消費電力が 0.45 W くらいになって定格を超えてしまいます。そこで、4個の抵抗器を写真のように並列につなげました。こうすれば抵抗器1個あたりの消費電力は 0.11 W くらいになって大丈夫です。



上の写真はそれぞれ正側の電圧と電流をテスタで測っているところです。電圧の目盛りはちゃんと 5V を指し、電流は 90mA くらいを指しています。正常に機能しているようです。では、整流・平滑回路のリップルの様子はどうでしょうか?



上は、同じく 56Ω の負荷をつないだ状態で、整流・平滑回路の出力波形と3端子レギュレーターの出力波形を比較してみたものです (左: 正側、右: 負側)。このとき、たしかオシロスコープの電圧目盛りをちゃんと合わせていなかったので、電圧の比較はあまりあてになりませんが、まあ、ともかく期待通りの動作をしてくれているみたいです。

次に、しばらく電流を流し続けた後、3端子レギュレーターがどれくらい熱くなっているか、触って調べてみました。全然熱くなかったです。ぬるま湯くらいでした。今回はかなり余裕のある構成にしたので、大丈夫そうです。

7. ケースへの取り付け

実は、上の節からこの節の間に半年以上の開きがあります (^^;)。ケースを作る気力がなくなってきたので延期することにしたら、そのままずーっと休止状態になってしまったという…。今月に入ってようやくまたやる気になって再開したのです。今回はアクリルカッターの使い方をちゃんと覚えたのと、ドリル穴拡張のためのリーマや、アクリル用接着剤を買い足したので、以前より綺麗にケースを作れるようになったと思います。 ヒューズホルダーもちゃんとヒューズに合うものを買っておきました。



使いやすいように、出力側にはピンジャックをつけておきました。ピンチップを刺して使用します。

次回はいよいよオシレータキットを作って、オシロスコープでいろいろ波形を観賞する予定です。もうあまり間をあけたくないので、このページをアップしたらすぐに取り掛かって、今日中に一気に終わらせたいところですが…。

2008年7月
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